『関西の夏と言えば鱧♫その魅力を徹底解剖』~子どもと一緒に食を考える #42

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『関西の夏と言えば鱧♫その魅力を徹底解剖』~子どもと一緒に食を考える #42

Terry Naniwa

Terry Naniwa

編集・ライター稼業に従事すること30余年。 子育ては卒業も、新米パパ&ママに先人の教えや 大切な伝統を発信することをライフワークに活動中。 明治、昭和、平成と時をこえて今も息づく暮らしの知恵を 届けます。

京都の祇園祭や大阪の天神祭が近づくと関西では「走り鱧」と呼ばれる鱧料理が人気を集めます。東京ではここ10年来、ようやく需要が増えてきたようですが、まだまだ庶民の味としては定着していないようです。鱧はなぜ関西の人々に好まれ、夏の食文化を担う重要な食材となったのでしょうか。今回は、鱧と関西の関わりにスポットを当てます。

鋭い歯を持つ大型肉食魚の産地は西日本

ウナギ目ハモ科ハモ属となる鱧は、非常に攻撃的な性格で人に向って噛みついてくることから、「食む(はむ)」魚と言われたのが語源とされています。料理人の世界では活魚漕から飛び上がって噛みついてくることもあるので新人教育の際に、扱いに気をつける魚として指導しています。鱧は日本の沿岸部生息しており、主な産地は兵庫県(淡路島)、徳島県、長崎県(五島列島)、大分県、熊本県など西日本が中心になっています。中でも瀬戸内海の鱧は人気が高く、京都や大阪の老舗料亭などがこの時期は挙って仕入れています。

仕込みが難しい鱧料理は職人の腕の見せどころ

徳川の治世の頃から鱧は、京・大阪を中心に消費され、江戸をはじめとする関東圏では馴染のない魚でした。その際たる要因は、鱧料理の仕込みの難しさにあったのです。まず、表面のヌメリを取り除き、身を開いて中骨を取ります。次に背鰭を落としてから、身の方から皮側に向って一寸(約3cm)に二十四前後、包丁を入れていく骨切りという大変な作業があります。長い歴史の中で培われてきた職人の技術は、京・大阪でしか受け継ぐことのできない貴重な伝統技法だったのです。

結果、鱧が江戸に運ばれても、骨切りができる職人がいなかったため食材としての利用に至らず、長く関西だけで楽しまれる高級魚の位置づけとなり、それが昭和から平成のごく最近まで残っていたのが実情のようです。東京の食通が、鱧を食べたくなると京都や大阪へ旅行に行くと言われていたのはこのような背景があったのです。

鱧の旬は祇園祭・天神祭の頃と、秋口の二回♫

鱧が京都で重用された主な理由は精気と生命力が強く鮮度も落ちにくい点で、海から遠い京の都でも鱧なら新鮮な状態で輸送ができました。加えて、暑さの厳しい京の夏に、涼しげな白い身と淡白な味わいは最良の食材として受け入れられたのです。その旬は二回あるとされており、「梅雨の水を飲んでおいしくなる」という言葉に代表される7月中旬・祇園祭の頃が最初の旬となります。梅肉で味わう「鱧の落とし」や出汁のしゃぶしゃぶで楽しむ「鱧しゃぶ」などがポピュラーな料理になります。

そして鱧に脂がのってくる秋口に二度目の旬を迎えます。脂がのり、少しクセの出てくる鱧と松茸を組み合わせた土瓶蒸しは、京料理が生みだした究極のレシピと言えるでしょう。その風味を五感で味わえる楽しみは日本人に生まれたことを感謝したくなると筆者は思っています。

鱧の魅力を子どもにも伝えていきましょう

鱧は、骨切りという難しい調理技術が必要なため、お家での料理に向いている食材ではありません。ただ日本の素晴らしい食文化を後世に残しておくためにも、機会があれば、ぜひお子さんにも食べさせて欲しい魚です。この時期、デパ地下などの食料品売り場には、鱧の調理品が並びますので、一度、見てみてはいかがでしょうか。「鱧の押し寿司」なら甘タレで食べやすく、家族みんなで楽しめますよ。

【参考文献】

※『ぼうすコンニャクの日本の高級魚事典』|株式会社三賢社2022年刊

※『鱧料理 京都が育んだ味と技術』| 株式会社旭屋出版1999年刊

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