『ホワイトデーは、なぜ日本だけが盛り上がるのか!?』~子どもと一緒に食を考える #9

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『ホワイトデーは、なぜ日本だけが盛り上がるのか!?』~子どもと一緒に食を考える #9

Terry Naniwa

Terry Naniwa

編集・ライター稼業に従事すること30余年。 子育ては卒業も、新米パパ&ママに先人の教えや 大切な伝統を発信することをライフワークに活動中。 明治、昭和、平成と時をこえて今も息づく暮らしの知恵を 届けます。

もうすぐホワイトデーがやってきます。バレンタインデーのお返しを選ぶことに頭を悩ましているパパも多いようですが、世界を見ればホワイトデーは日本だけの特異な慣習で、ヨーロッパなどでは見向きもされていません。近年では、お隣の韓国や台湾で少しは浸透しているようですが、それでもアジアのごく一部に限られています。

日本のある菓子メーカーが考案したホワイトデーとはいえ、なぜこれほどまでにわたしたちの社会だけ盛り上がるのでしょうか?そこには古くからの伝統・日本人ならではの意識が大きく関係していたようです。今回は、ホワイトデーが大きく成長した謎に迫ります。

ホワイトデーの誕生はいつ?

まずはホワイトデーの発祥から紐解いていきましょう。2月14日バレンタインデーの由来とされているバレンタイン司祭に助けられたカップルが、司祭が殉教した1ヶ月後の3月14日に司祭の霊に向けて、永遠の愛を宣言したことに因んだ記念日のようです。その言い伝えに目をつけた、福岡県の菓子メーカー石村萬盛堂が1978年にバレンタインデーのお返しにマシュマロを贈りましょうと宣伝したのが始まりです。

「マシュマロの日」としてPRされましたが、その普及については全国飴菓子工業協同組合が1980年に「ホワイトデー」と銘打ってキャンペーンを開始したあたりから盛り上がりを見せ始めました。マシュマロをはじめ、ホワイトチョコレートなど白いスイーツを前面に押し出した展開は、バレンタインデーの褐色のチョコレートと絶妙のコントラストとなりマスコミも大きく取り上げ、今日の隆盛に繋がったのです。

バレンタインデーの歴史から見てみると

ではホワイトデー発祥の基となったバレンタインデーについても、もう少し詳しくみていきましょう。3世紀のローマ帝国では、富国強兵策として兵士たちの結婚を厳しく禁じていました。これに反対したキリスト教のバレンタイン司祭は、内緒で多くの兵士たちを励まし愛する人との結婚を支援していましたが、帝国側の知るところとなり、ついには捕えられ2月14日に処刑されてしまったのです。

やがてバレンタイン司祭は「聖バレンタイン」として敬われるようになり、この日をローマカトリック教会では祭日と定めました。当初の聖バレンタインデーは司祭の死を悼む宗教的行事でしたが、春の訪れを告げるこの季節は愛の告白にぴったりであったことから、14世紀頃から若い人たちの告白やプロポーズの贈り物をする日になっていったといわれています。

日本のバレンタインデーのスタートは神戸の菓子メーカー

日本では1936年、神戸のモロゾフが日本初のバレンタイン・チョコレートの広告を英字新聞に掲載しました。創業者がロシア出身で、欧米で定着していた「愛を告げる日」を日本でも訴求したいとの想いでした。残念ながら大きな反響もなく、また戦時色が濃くなってきた当時では、その後も話題にはされなかったようです。戦後10数年経った頃から、不二家や森永製菓などの大手菓子メーカーがバレンタインデーに向けた商品開発やPRを始めるようになりました。そして高度経済成長を迎えた1970年前後から、バレンタインデーにチョコレートを贈るというスタイルが日本中に認知されるようになったのです。

その当時は、女性から愛の告白をするという考えや行動は、まだタブーとの風潮が強く残っていました。それを逆手にとり年に1回だけ、告白を公認するというPR戦略が目新しく受け止められ、女性から男性へチョコレートを贈るという日本型の特異なバレンタインデーが構築されました。

お返しを重視する日本古来からの贈答儀礼文化

バレンタインデーが定着したわずか10年後には、ホワイトデーも市民権を得るようになりましたが、そこには日本古来からの文化が大きく関与していました。それが、贈り物を受け取った側は、時間的な差を設け、改めて別の日にお返しをするという贈答儀礼の伝統だったのです。元来、プレゼントを怠ったり、断ったりすると社会通念上、付き合いを遮断したとみなされ、大きな摩擦を生みトラブルの原因になるとの考えが日本の古くからの常識でした。人と人、家と家、親しい間柄の大切な潤滑油になっていたのが贈答文化であり、そのお返しを重視するという日本人ならではの意識がホワイトデーと結びついたのはごく自然な流れでした。

女性から男性に贈られるバレンタインデーに対し、お返しという意識が絶妙に反応し、一方通行のアンバランスにならない手段としてのホワイトデーが短期間に確立されたのです。所詮は義理チョコだからと言いつつ、お返しを必死に選ぶ男性陣の姿こそ、日本古来からの贈答儀礼文化の証といえるでしょう。

パパキャリ世代のホワイトデーとは

こうしてホワイトデーは日本特異な催事として定着しましたが、日本のバレンタインデーも先述のように世界の中で特異なのです。欧米では、男女問わず、「愛を告げる日」として認知されていますが、日本では未だに2月14日は女性から、3月14日はそれを受けて男性からと、各メディアですら発信内容は変わっていません。その一方で、マスコミも大企業もジェンダー平等を唱えているのを見ると、なぜ?と首を傾げたくなるのは筆者だけではないでしょう。

バレンタインデーもホワイトデーも、男女問わず、愛する人にその想いを伝える日となることが、日本におけるジェンダー平等の実現の一歩になるのではないでしょうか。まずはパパキャリ世代のパパ・ママが、2月14日と3月14日を区別することなく、いずれの日にも、ふたりで愛を伝え合うような家庭を築き、それを子どもにも見せてあげて欲しいと願います。

締めくくりにエピソードをひとつ。毎年の2月14日に欠かさず、大切な女性に花束を贈り続けている素敵な男性が日本にもいるのです。日本サッカー界のレジェンド「キング・カズ」こと三浦和良選手です。今年のホワイトデーはもちろん、来年のバレンタインデーにこそ、キング・カズ同様、パパからママに花束を贈ってみてはいかがでしょう!

 

【参考文献】

※『日本の365日を愛おしむ~季節を感じる暮らしの暦~』|株式会社飛鳥新社2020年刊

※『バレンタインデーの秘密~愛の宗教文化史~』|株式会社平凡社2015年刊

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