秋が旬の魚と言えば、さんまや鮭が有名ですが、鯖も忘れてはならないおいしい魚のひとつです。この時期に獲れた鯖は「秋鯖」と呼ばれ、脂ののりが良く、味も格別と高い人気があります。秋から冬にかけて鯖がおいしくなる時にちなんで、今回は鯖にまつわる面白話を5選お届けします。
今や鯖は高級魚!代表的なブランド鯖とは
鯖は漁獲量が豊富で、鮮魚だけでなく加工品にも使われる低価格魚の代表とされ、家計の優等生とも言われて来ました。ただ、一部の地域ではわずかな漁獲量の高級鯖が密かな人気を集めていました。1990年代のグルメブームになるとそうした希少価値の鯖にもスポットライトが当てられるようになり、一躍、高級魚としての地位が確立されブランド鯖が全国に流通するようになったのです。
そのブームの火付け役となったのが大分県佐賀関の関サバです。佐賀関の海域で一本釣りで漁獲された鯖のみを指し、釣った後も生きたまま運び、港の生け簀で管理されます。そして出荷の際には生き締めと、鮮度を保つために手間を惜しみません。旬は10月~3月、身が締まってほどよい脂肪が自慢で、なんと言っても刺身で食するのが醍醐味でしょう。
希少価値のブランド鯖と言えば、宮城県石巻の金華サバがその筆頭になります。市場に出荷されるには厳しいルールがあるため、ブランド基準をすべて満たした鯖は稀で、ベストシーズンでもその漁獲量は全体の1割にも届かないほど希少価値が高く、幻の鯖といわれる由縁です。旬は9月~1月頃で、プリプリで脂がのった身が魅力と言われています。
その他にも、神奈川県松輪漁港の松輪サバ、鳥取県岩美町のお嬢サバ、青森県八戸港の前沖サバなどが高い人気を博しています。
柿の葉寿司になぜ鯖が使われたのか
奈良県を代表する名物のひとつ柿の葉寿司に鯖は欠かせない食材です。ただ海の無い奈良県で、なぜ鯖が使われるようになったのでしょうか。江戸時代、紀州(和歌山県)の漁師たちが、熊野灘で獲れた鯖を塩で締め、峠を越えて吉野川沿いの村(奈良県)へ売りに出かけたことをきっかけに生まれたとされています。ちょうどその頃吉野の村では夏祭りが開催されており、山奥に住む人たちにとって海の幸は貴重な食材だったので大喜び。
ただ、塩締めした鯖はそのまま食べると塩辛いため、薄く切って酢飯の上にのせました。さらに酢飯を乾燥から防ぐため、裏山にあった「柿の葉」で包んで保存したようです。これが柿の葉寿司の原点になったという説です。
のちに柿の葉には、柿タンニンというポリフェノールが含まれていて、抗菌・抗ウイルス作用があるということがわかり、それからは保存食としても科学的に優れているという評価を得、奈良の名品として今の地位を築いて来たのです。まさに奈良の風土が生んだ郷土の逸品なんですね。
鯖の煮付は、醤油or味噌?
鯖の煮付と言えば、醤油煮か味噌煮、どちらを選びますか?この問いに日本は見事なまでに二分されるのです。日本経済新聞が2017年に調査をした結果、北海道から東北、北陸、関東、中部までが味噌煮が主流を占め、関西から中四国、九州にかけては醤油煮が中心と言う興味深いデータが報告されています。
確かに、定食屋さんなどで鯖の煮付を注文すると、東京では赤味噌で仕上げられた煮付が登場しますし、大阪では醤油ベースの出汁で仕上げられた品が提供されます。関西でも、味噌煮はありますが、その場合は鯖の味噌煮と表記されるお店が多く、鯖の煮付という文言は、醤油煮を指しています。
日本の醤油の発祥は和歌山県湯浅で、当時は京の都を中心に醤油文化は西日本を中心に拡がっていきました。一方、味噌は、東北や北陸ではそれぞれの家庭でオリジナルの調味料として作られていました。こうした食文化の違いが、鯖の煮付にも表れているんですね。
サバを読むって鯖が語源なの?
ママをはじめ女性だったら誰しも体重やスリーサイズ、年齢などデリケートな質問は、避けて通りたいものですよね。でも、そう言った場面になってしまった時、多少数をごまかして答えてしまった経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。それを昔からある言葉で「サバを読む」と言います。“鯖を読む”の“読む”ですが、この表現は日常使われている“読む”とは異なり、“数える”という意味になるのです。これは万葉の時代からの表現で、今でも沖縄の地方に伝わる民謡などにその名残を見ることができます。
つまり鯖を読むとは、直訳すると鯖を数えるという意味になります。鯖を数えることが、なぜ数をごまかすことにつながるのでしょうか?鯖を読むという表現そのものは、江戸時代から使われるようになった表現で、徳川幕府の安定した政権により、庶民の生活や文化が大きくクローズアップされたことが背景にあるようです。急速な発展を遂げてきた江戸の街には人とともに物も集まるようになり、魚を扱う市場も活気を帯びてくるようになりました。
当時、日本近海では鯖が豊富に獲れており、天保2年発行の「魚鑑(うおかがみ)」には、「鯖は四時常にあり、春より秋の末まで盛りなり」とあります。たくさん獲れる鯖は傷みやすいのが欠点の魚でもあります。また、鯖は夏の季語にもなる魚で、一番獲れる旬は夏だったのです。気温の高い夏は、鯖の傷みがさらに気になる季節でもあります。当時の市場では重さではなく魚の数で取引がおこなわれていました。
毎日大量に水揚げされる鯖を傷まないうちに売り切るためには、スピードが重要視され、ざっと目分量で取引されることが多かったのです。当然のことながら、売られた鯖の数と買った数とが合わないことがひんぱんに発生し、そこから数が合わないことを“鯖を読む”と言うようになりました。さらに時代を経て、都合のいい数値にごまかすという現在の意味に転じていったのです。
秋鯖は嫁に食わすな!は嫁いびりのことなの?
鯖は春から初夏にかけて日本各地で産卵します。そして夏の産卵後は、越冬に備え、栄養を十分に摂っていくので脂がのり味が良くなってきます。この頃の鯖は「秋鯖」と呼ばれ、鯖の旬の時期ととして食卓で人気を集めます。そんなおいしい秋鯖を、嫁に食わすな!とは、なんと昔の人は意地の悪い考えで、嫁いびりをしていたのかと思う人も少なくないようです。
でも実際は違うのです。秋鯖は産卵後のため、全く子種が無いことから、大切な嫁に子どもが出来なくなったら大変だから!という、縁起の言葉なのです。お嫁さんの身体を労り、子孫繁栄を願うあたたかい想いがこもった言い伝えになるのです。
家族でおいしい秋鯖を楽しみましょう
鯖の面白話、いかがでしたか。最初にご紹介した関サバや金華サバなどの高級ブランド鯖は、なかなか手に入れることは難しいですが、この時期、いつもの売場でも十分においしい秋鯖がお手頃の価格で並んでいるはずです。せひ、様々な鯖料理を家族みんなでおいしく食べて楽しんでみてください。そしてパパ・ママから、お子さんに、鯖の興味深いお話を聞かせてあげてくださいね。
【参考文献】
※『魚百選』|株式会社本の泉社2015年刊
※『日本の高級魚事典』|株式会社三賢社2022年刊