魚へんに春と書く鰆は、身が柔らかく骨も少ないので小さな子どもでも食べやすく食卓の人気メニューのひとつです。日本一の消費量を誇る岡山県を筆頭に西日本では鰆の旬は4月~5月頃といわれていますが、関東を中心に東日本では12月~2月と、まさに今がそのフィナーレを迎えている最中です。同じ魚なのに、なぜ東西で旬が異なるのでしょうか。今回はその違いを探りつつ、鰆の魅力に迫ります。
その呼び名も大きさも東西で異なる出世魚
スズキ目・サバ科に属する鰆は、鰤や鱸と同じく出世魚としても知られています。その呼び名も東西で異なり、成魚の鰆と認められる大きさが違う点も、旬の相違と同様に興味深いところです。
◆『関東の呼び名』(サイズはcm)
(稚魚) ⇒サゴチ(50以下) ⇒鰆(50超)
◆『関西の呼び名』(サイズはcm)
(稚魚) ⇒ サゴシ(50以下) ⇒ ヤナギ(60以下) ⇒ 鰆(70超)
瀬戸内海に産卵で集まる鰆の群れ
鰆は鮪や鮭などと同様の回遊魚で、群れを作り成長に合わせて住む場所を変え、決まった季節に広い範囲を同じ経路で移動します。北海道南部から九州まで日本列島を移るので、各地域の沿岸を通る時期がその地元での旬となります。これが、関東と関西で旬が異なる理由です。
そして4月から5月にかけて産卵のために瀬戸内海に集まり、大量に捕獲できる西日本では、この時期が旬とされるようになりました。春に獲れる鰆の身は柔らかでさっぱりした淡白な味わいですが、真子や白子が立派に成長しているので余さず楽しめます。河豚を筆頭に魚卵や内臓を好む関西の食文化にマッチしていたのも人気を高めたと考えられます。
鰆の消費量日本一を誇る岡山県では「鰆が来ないと春が来ない」と言われるほどの人気です。郷土料理の代表「ばらずし」をはじめ、お刺身、西京漬け、鰹にも負けないたたきなどグルメの舌を感動させる味を求めて、数多くの鰆ファンが春に岡山を訪れています。
寒鰆を好む東日本
一方、関東を中心に東日本では12月から2月末頃までの寒鰆が好まれ、今の時期が旬とされています。冬の鰆は産卵を控えているので、豊富な栄養を魚体に蓄えるようになり、脂ののりがよく春に捕れるものよりもこってりとした濃厚な味わいが楽しめます。口の中でとろける脂の奥深い旨みが、関東の人たちの味覚にマッチし寒鰆こそ本物の味とゆずりません。皮までおいしく食べれる焼霜造りや照り焼き、西京漬けなどが人気メニューです。
家族みんなの健康に役立つ豊富な栄養素
鰆は魚の中のスーパーフードと言っても過言ではないほど身体にうれしい栄養素が豊富です。皮膚や粘膜の健康維持に欠かせないビタミンB2や味覚を正常に保つ亜鉛をはじめ、カルシウムやマグネシウム、リン、ビタミンDなど目白押し。加えて、生活習慣病の予防が期待できる成分もたくさん持っています。
鰆100gの中に「必須脂肪酸」の1つであるDHA(ドコサヘキサエン酸)が1100mg、EPA(エイコサペンタエン酸)が340mgも含まれています。これらは、血管の柔軟性や血液の流れをよくする効果があると言われており、生活習慣病の予防にも欠かせない成分ですが、人の体内では生成ができません。そのため、鰆などの青魚からの摂取が必要になるので、パパ・ママをはじめ大人におすすめの食材として覚えておきましょう。
さらに子どもの成長に欠かせないたんぱく質もたくさん含んでおり、鰆100gに20.1gもの値があります。肌や髪、筋肉から臓器にいたるまで、子どもの身体をしっかり作るためにも大切な栄養素となります。まさしく家族みんなのためのスーパーフードです。
年2回の旬を逃さず鰆を楽しむ
私たちの暮らしの中で、幸いにも鰆はほぼ一年中、手に入れることが可能です。それぞれの旬にあわせた調理方法で鰆を楽しみながら、家族の健康に役立ててくださいね。
最後に余談をひとつ、岡山県では鰆を大切な観光資源ととらえ、PRのために【岡山サワラ大使】を歴代任命しています。倉敷市出身で、中日・阪神・楽天を優勝に導いた筆者も敬愛する名将・星野仙一さんが2003年に務めたのが初代とのことでした。
【参考文献】
※『からだによく効く旬の食材 魚の本』|株式会社講談社2013年刊
※『旬紀行』| 株式会社ディノス2006年刊