夏になると食べたくなる冷たくておいしい「そうめん」。日本古来の麺と思っている方も多いようですが、その原型は中国から渡来しているのです。同じような麺「ひやむぎ」とは、どこが違うのか?また保存期間はどれくらい持つのかなど、身近な食材なのに意外と知らないこともあるのではないでしょうか。そこで今回は、子どもにも教えてあげたい話題をトリビア風にお届けします。
そうめんの原型は中国伝来のお菓子「索餅」
そうめん=日本の夏の風物詩というイメージがありますが、もともとは中国から渡ってきたという説が有力です。後漢の時代や唐代の書物に記されている「索餅」というものがそうめんの起源であるといわれています。日本には、奈良時代に伝わってきたようで、 伝来当初の索餅は、小麦粉ともち米(米粉)を練って縄状にし油で揚げたもので、唐菓子、今でいうスイーツの位置づけでした。その後、室町時代あたりに現在のような細長い麺として定着したようです。
「にゅうめん」とは温そうめんの呼び名
室町時代の後期頃から、流行した食べ方で、味噌や醤油の出汁に入れ煮込んだレシピになります。入麺や煮麺と記されたのが「にゅうめん」の呼び名になったようです。江戸時代には寒い日の温かメニューの定番になっており、俳人・松尾芭蕉も「入麺の下たきたつる夜寒哉」と詠んでいます。
「ひやむぎ」との違いは?
ひやむぎとそうめんはその製法に違いがあります。ひやむぎはうどんと同じように生地を包丁で切って細打ちにしたもの。一方そうめんは植物油で伸ばして麺にしたもので、長く伸ばした麺を日光で乾かして仕上げます。原材料が小麦粉・水・塩とまったく同じ食べ物ですが、もともとはこの作り方の違いによって区別されていたのです。江戸時代末までは手作りだったので、見た目にも違いがありました。
ところが、明治以降に機械製麺が普及したことで製法の違いでの区別が成り立たなくなり、少し太いものをひやむぎとして商品化するようになりました。しかし製造業者によって「ひやむぎ」と「そうめん」を区別する太さの基準がバラバラでした。そのため目印にとして、ひやむぎのほうにだけピンクや緑の麺を数本混ぜることで区別を図りました。今でも見かける、あの色付き麺にはそんな意味があったのです。
混乱の時代を経て、現在ではJIS規格によって明確に定められ、直径1.3mm未満の太さはそうめん、1.3mmから1.7mmの場合はひやむぎ、それ以上は干しうどん、というように区別されるようになりました。国が明確な基準を設けてからは、ひやむぎとそうめんを分けるのは基本的に太さだけということです。
ただ手延べ麺の場合、機械製麺のようにまったく同じ太さの麺を量産するのは難しく、機械製麺の規格とは少し異なります。手延べ麺の場合、ひやむぎでも、そうめんでも1.7mm未満という決まりがあります。 基準がまったく同じのため、機械製麺よりも見分けが難しいのが実情です。パッケージの表記をしっかり確認してから選ぶようにしてくださいね。
日本の三大そうめんとは?
日本三大そうめんとは、兵庫県の播州そうめん「揖保乃糸」、奈良県の「三輪そうめん」、香川県の「小豆島そうめん」のことを指します。この3つは、すべて「手延べ製法」で作られているのです。機械製麺では、製麺機を用いて少しずつ薄い麺帯に伸ばし、そのあと細く切ってから機械で乾燥させます。機械製麺で作るそうめんは、伸ばしが少なく、グルテン組織にばらつきがあります。そのため、機械製麺したそうめんは手延べそうめんと比較すると、味の優劣が出てしまいます。
三大そうめんが用いる手延べ製法では、伸ばす際に油を使用し、伸ばしては熟成するという手間ひまをかけた工程を何度も繰り返し作られます。職人の経験と勘が活かされる製法で、常に一定方向に生地を伸ばすため、グルテン組織にばらつきが出ず、機械で作るそうめんよりも細く、のどごしの良いそうめんに仕上がるのです。ではそれぞれの特長をご紹介しましょう。
奈良県の「三輪そうめん」
そうめん発祥の地と言われている奈良県桜井市の三輪地方を中心に生産されています。その歴史は、1200年近くまでさかのぼると言われています。奈良時代の遣唐使によって、小麦栽培や製麺方法が伝えられたそうで、歴史あるそうめんです。三輪地方では、毎年2月に大神神社で、そうめんの相場を決めるための卜定祭(ぼくじょうさい)が開催されています。
三輪そうめんの特長は、「細きこと糸のごとく白きこと雪のごとし」と称されており、その細さと強いコシが魅力のそうめんです。全体を4つの等級に分けており、細ければ細いほど等級が高くなります。
また、煮崩れしにくいという特長も有しているので、にゅうめんや炒め物にするのもおすすめのそうめんです。とくに、にゅうめんは奈良県の郷土料理としても有名です。夏は冷やしてさっぱりと、冬は温めてにゅうめんに、というように地元では通年で楽しまれています。
兵庫県の「揖保乃糸」
揖保乃糸は、兵庫県たつの市で作られているそうめんです。500年の歴史を有しており、日本で最も人気のそうめんだと言っても過言ではありません。兵庫県手延素麺協同組合が打ち出しているそうめんで、10月から翌年の5月までしか生産されません。厳選した小麦と赤穂の塩を原材料として使用し、長年に渡って受け継がれてきた独自の伝統技法で作られています。
独自のコシや歯ごたえがありながら舌触りはなめらかで、茹で伸びしにくいという特長があります。また、使用される小麦の質や製造時期などによっていくつかの等級があります。贈り物としても非常に喜ばれる一品ですので、知人や友人への贈り物に悩んだ際は、こちらを選んでみると良いかもしれませんね。
香川県の「小豆島そうめん」
瀬戸内海にあるオリーブで有名な小豆島で作られているのが小豆島そうめんで、讃岐うどんの祖先だとも言われています。実は、小豆島そうめんの起源には、三輪そうめんが関係していると言われています。約400年前に伊勢参りに行った島民が、三輪そうめんの作り方を学び、小豆島独自のそうめんを作り始めたそうです。温暖な気候の小豆島は小麦の栽培にも適した環境なので、オリーブと同じように、小豆島そうめんも小豆島の名産品としてその名を知られるようになりました。
熟練の職人が、極寒の12月~1月に入念な天日干しをして仕上げられる小豆島そうめんの最大の特長は、ごま油の風味です。麺をのばす際に、ごま油を使用しているので、独特の風味があるのです。そのため、ほんのり黄色がかった色をしており、口に入れるとごま油の風味が口いっぱいに広がりますよ。
手延べそうめんはいつまで保存できるの?
小麦粉・水・塩のみで作られるそうめんですが、手延べそうめんには、細く伸ばす際に麺の表面に食物油が使われます。この油でのコーティングによって、湿気の吸着を抑え、賞味期限を延ばすことができるのです。乾麺なら最長で3年の賞味期限がとられているものもあります。また半生麺もあり、こちらは3ヶ月ほどの賞味期限が設定されています。
そうめんは、木箱入りであっても袋入りであっても、何束がまとめて入っていることが大半です。数束を使ったあとの残りは、開封後であっても、茹でる前なら賞味期限は変わらないと考えてOKです。しかし、開封することによって虫が付いたり、カビが生えたりするリスクも発生しますので、保存袋に入れてから、冷蔵庫で保管するなど、しっかりとした環境で保存するようにしてくださいね。
家族でアレンジそうめんを楽しみましょう
そうめんトリビア!いかがでしたか。古くから私たちの食卓を彩ってくれているそうめんですが、めんつゆだけでサッと食べるスタイルが続くと、子どもたちにも飽きが来くるかもしれません。そんな時こそ、一味違ったアレンジレシピで新たなおいしさにチャレンジしてみましょう。編集部おすすめの『クリーミー・アボカドそうめん』などのアレンジそうめんを、家族みんなで楽しんでくださいね。
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【参考文献】
※『たべもの起源事典』| 株式会社東京堂出版2003年刊
※ 『日本めん食文化の1300年(増補版)』| 一般社団法人農山漁村文化協会2014年