春の貝・浅利(あさり)を代表する料理と言えば、日本の郷土料理百選のひとつ「深川めし」が思い浮かびます。ざっくりと切った葱と生のあさりを味噌で煮込んで熱いご飯にぶっかけたもので、江戸時代から受け継がれている東京の下町・深川ならではのレシピです。この料理だけでなく、あさりは古くから私たち日本人の食卓を支えてくれてきました。今回は、魅力一杯の春の貝・あさりに迫ります。
減少しているあさりの収穫量
昭和の頃は、初夏が近づくと潮干狩りであさりを探す親子の姿が全国各地の海岸で多数見かけられました。しかし近年は、干潟は開発で埋め立てられたり、残った海岸も水質の悪化などであさりの潮干狩りを楽しめる場所が少なくなっています。
潮干狩りだけでなく、水産業としてのあさりの水揚げも1980年代には12万トン以上の収穫量を誇っていましたが、2010年代には2万トンと1/6以下に減少しているのです。環境の悪化に加え、私たちの食生活の変化もあさり離れの大きな要因になっているようです。しかし、あさりはおいしさだけでなく豊富な栄養も兼ね備えており食べるサプリメントとも称される食材なんです。この機会に、あさりの価値を見直して、ぜひ食卓に並べて欲しいと願っています。では、そのあさりの高い栄養価をご紹介していきましょう。
食べるサプリメント・豊富な栄養のあさり
あさりにはカルシウムやカリウム、亜鉛、鉄などのミネラルがたっぷり入っています。 特に100gあたりに含まれるビタミンB12の含有量は貝類の中でNo. 1です。 ビタミンB12が不足すると、悪性貧血による頭痛・めまい・吐き気・動悸・息切れ・食欲不振などを引き起こしたり、神経痛、慢性疲労の要因にも繋がります。江戸時代の人たちは、毎朝、あさりの味噌汁を好んで食していましたが、まさに食べるサプリメントのパワーをしっかり摂っていたのです。先人の知恵には本当に感心させられますね。
海の環境も守るあさりの凄さ
あさりは、私たちにとって高い栄養価を持つ食材だけではなく、生命の故郷でもある海にとっても無くてはならない貴重な存在なのです。あさりの貝殻からにょきっと付きでた2本の触覚のようなものは、「入水管」と「出水管」と呼ばれています。まず入水管からエサとなる植物性プランクトンを海水ごと吸収してエラでこしとり、今度は出水管からろ過した海水を吐き出します。このろ過の行程により海水が浄化されるので、海にいる他の生物の生息環境を良くし、海の自然が守られているのです。
1時間で約1リットルの海水をろ過するので、単純に考えると24時間で24リットル。あんなに小さい体で、実はすごい貝なんです。最近、あさりの養殖に力を入れ、近海の環境を保護しようという取り組みが始まっており、注目を集めています。
おいしく食べるためには砂抜きが大切
では、おうちであさりを食べる時の大切なポイントをお伝えしておきましょう。「砂抜き」と呼ばれる下処理が何よりも、おいしいあさり料理の基本になります。先にお伝えしたように1日で24リットルもの海水を飲み込んでいるので、あさりの体の中には砂などの不純物が溜まっています。それをキレイな塩水に浸けておき、浄化させる必要があるのです。
3%の塩分濃度の塩水を作ってから、少し網目の大きなザルをしいたボウルに塩水を入れて、あさりもドボンと浸します。20℃くらいの水温で活発になるので、室温で暗い場所に半日くらい置いておけば、砂抜きの完了です。ザルから取り出して、いよいよ調理の開始です。ですから、あさりをおいしく食べるには1日仕事とも言われています。ただ忙しいパパキャリ世代の皆さんは、毎日、砂抜きの時間を作るのは困難ですね。その場合は、あさりの水煮缶などを使って、まずはあさり料理を食卓に並べることから始めてみましょう。そして休日には、しっかりと砂抜きからチャレンジしてみてくださいね。
春の貝・あさりを家族みんなで楽しみましょう
酒蒸し、佃煮、炊き込みご飯、パスタ…、あさりをおいしく楽しむレシピは数多くあります。私たち日本人の食卓を彩り食べるサプリメントとも称されるあさりを、ぜひ家族みんなで楽しんで、パパ・ママから子どもたちにおいしい日本の食文化を伝えてあげてくださいね。来週公開予定のレシピ「パパのお手軽レシピ」でも、あさりの簡単レシピをご紹介しますのでお楽しみに。
【参考文献】
※『食卓からアサリが消える日』|有限会社海鳥社2015年刊
※『からだのための食材大全』| 株式会社NHK出版2018年刊