春を呼ぶ和菓子と言えば、何と言っても桜餅ですね。筆者も大好きな逸品ですが、この桜餅、実は関西と関東で姿・形が異なっていることはご存知でしたか。そこで今回は関西と関東の桜餅のそれぞれの歴史や由来を紐解きながら、両者の違いをご紹介します。おいしい桜餅をお子さんと家族と楽しむ時の話題にしてみましょう。
西の桜餅「道明寺」とは
関西の桜餅は別名、道明寺とも呼ばれています。大阪府藤井寺市にある道明寺というお寺で作られた道明寺粉を材料としており、もちもちした食感が魅力で、丸や楕円形のスタイルが一般的です。道明寺粉とは、糯米を水にひたして蒸し、それを乾燥させたもので、元来は保存食として用いられていた食材でした。
道明寺粉にしっかりと蜜を吸わせたのち、こし餡かつぶ餡を入れ、桜の葉で包みます。糯米を乾燥させ粉にしてからまたもどすという作業により、独特の弾力や粘りが生まれます。まさにお餅らしい食感と、桜の風味にちょっぴり感じる塩味が絶妙のおいしい和菓子として、関西の春を彩っています。
東の桜餅は「長命寺」
一方の関東の桜餅の発祥は、いまも営業を続けている300年超の老舗の創業者が考案したものになります。江戸時代の享保二年(1717年)、長命寺の門番をしていた山本新六は、桜葉の掃除をしている際に塩漬けの桜葉を巻いた餅を思いつき、長命寺の門前で売り出したのが始まりといわれています。当時から桜の名所であった隅田堤(墨堤通り)の花見の際に重宝され人気が高まりました。
この桜餅は小麦粉を使った生地を薄く焼いたクレープ状のものに餡をくるりと巻くスタイルで、多くは円筒状をしています。関西の道明寺とは異なり必ずこし餡が使われることも特徴のひとつになっています。
桜の葉は食べるの?食べないの?
東西で材料からスタイルまで異なる桜餅ですが、どちらも塩漬けした桜葉を巻いているのは共通しています。桜餅を食べる時に、葉っぱは食べるのか?食べないのか?悩んだ経験を持っている人も多いことでしょう。葉っぱを食べるか食べないかについてはさまざまな意見があり、お店によっても異なるようです。ただ、桜餅の葉っぱを食べるか食べないかは、明確な決まりはありません。
そのため、無理に食べなくてもマナー違反になることはありませんので安心してくださいね。なお、茶道の席で桜餅をいただく際は、和菓子をひと口サイズに切るのがマナーなので、葉っぱが切りにくいときは、先に剥がしてからいただくスタイルが推奨されています。
塩漬けの桜葉を使う意味は?
では、桜餅の葉っぱは何のために巻かれているのでしょうか?まず1つめの理由は香り。桜餅は、味や見た目だけでなく香りも楽しむ和菓子とされています。その香りを生み出すのが塩漬けにした桜の葉っぱなのです。2つめは乾燥防止。桜餅はとても繊細な和菓子ですから、乾燥は大敵です。せっかくの逸品が乾燥で硬くなると、おいしさが損なわれ価値が失われてしまいます。桜の葉っぱで包むことで、餅の乾燥を防ぐことができるのです。
そして3つめは塩味。桜の葉っぱの塩味が、あんや餅の甘さを引き立ててくれるのです。桜の葉っぱを一緒に食べれば、ほどよい塩気がアクセントにおいしさが倍増します。もちらん、葉っぱを剥がしても、餅にほのかな塩気が残っているので大丈夫です。強い塩味が欲しいと思う時は、葉っぱを一緒に食べるスタイルガおすすめですね。
桜餅には、オオシマザクラの葉っぱが使われるのが一般的です。オオシマザクラは、伊豆諸島や房総半島などが原産の品種で、塩漬けにしたときに桜特有の香りがしっかり感じられることや、葉っぱの産毛がないため食用にピッタリだったのです。
東西の桜餅を食べ比べて楽しみましょう
桜餅の東西の違いと葉っぱが用いられている理由、いかがでしたか。春の季語としても使われている素敵な和菓子。ぜひ、お子さんと家族と東西の桜餅の食べ比べを楽しみながら、ここでご紹介してきたお話を聞かせてあげてくださいね。春を呼ぶ和菓子とともに、心地良い季節を過ごしましょう。
【参考文献】
※『美しい和菓子の図鑑』|二見書房2021年刊
※『和菓子おもしろ百珍』|淡交社2001年刊