もうすぐ桃の節句、雛祭りがやってきます。女の子の健やかな成長を願う行事ですが、その時の楽しみは何と言っても食べ物になりますね。パパキャリ世代のパパ・ママもひなあられや菱餅、そしてちらし寿司などが思い出に残っているのではないでしょうか。今回は、雛祭りで食されるこれらの食べ物の由来についてご紹介します。しっかり覚えてお子さんに教えてあげましょう。
ひなあられの誕生はいつ?
雛祭りの定番の食と言えば何と言っても「ひなあられ」ですが、いつ、どのようにして誕生したのでしょうか。ひなあられが食べられるようになったのは、江戸時代に流行したという「雛の国見せ」という行事が関係しているといわれています。その内容は、部屋に飾られている雛人形を野外に連れ出して、春の景色を見せてあげ人形を愛でるという風習です。その際に雛人形に供えていた菱餅を屋外でも食べられるようにと砕いて持っていったのが始まりとされています。
3月3日の桃の節句である雛祭りをはじめ、五節句とは1月7日の「人日(七草がゆ)」、5月5日の「端午の節句」、7月7日の「七夕」、9月9日の「重陽の節句」になります。季節の変わり目に邪気をはらい、無病息災を祈る年中行事で、今でも馴染み深いものばかりです。これを江戸時代に幕府が公的な行事として定めたことで、雛祭りも広く一般に普及したということからも、ひなあられの誕生は江戸時代といえるでしょう。
ひなあられの色が持つ意味とは
ひなあられは、3色もしくは4色のものが一般的です。3色のひなあられの色は「赤・緑・白」ですが、赤色は血や命など生命のエネルギーを意味しています。緑色は木々の芽吹きをイメージしており自然の生命力やエネルギーを、白色は雪の大地をイメージして大地のパワフルなエネルギーをそれぞれ表しています。女の子がそれら自然のエネルギーを受けて、健やかに成長しますようにという願いが込められているのです。
4色のひなあられは、3色に黄色が加わります。この4色は、赤色が花のイメージから春、緑色が新緑のイメージから夏、黄色が紅葉のイメージから秋、白色が雪のイメージから冬と、春夏秋冬を表すとされています。一年を通じて女の子が健やかに成長しますようにという想いが込められています。両親の子どもに対する愛情が伝わってくるひなあられです。
中国から伝わった菱餅
先に紹介したひなあられの素となったのが、もう一つの定番「菱餅」です。このルーツは中国の伝統行事にあるとされています。古来、中国では五節句のひとつ「上巳節(じょうしせつ)」の日に、身体を清めて厄を祓う行事がおこなわれていました。上巳節では、ヒシの実で作った餅にハハコグサを混ぜて食べる風習があったとされています。ヒシの実には子孫繁栄や長寿、ハハコグサには母子が健やかに過ごせるようにとの願いが込められていました。この行事が日本に伝来したのは平安時代。それと同時に餅を食べる風習も伝わったと考えられています。
当時の上巳節で食べられていた餅は、今のような菱形ではありませんでした。元の形は定かではないものの、菱形になったのは江戸初期といわれています。その理由には、ヒシの実の形に似ているから・ヒシの葉の尖ったとげに厄除けや魔除けの意味があるから・宮中で食べる「菱花びら餅」の形をモチーフにした・四角いヒシの葉の形を伸ばすことで長寿を祈願したなど諸説があるようです。ただいずれにしても、厄除けや長寿を願う気持ちから菱形になったことが分かります。
菱餅の色の意味は?
菱餅といえば、紅・白・緑の3色を思い浮かぶでしょう。紅色には魔除けの意味が込められており、淡い紅色は桃の花をイメージしています。もともとはクチナシの実で色付けされていたようです。白色は子孫繁栄や長寿の意味があり、雪解け間近の真っ白な雪がイメージされています。古くは、もち米ではなくヒシの実を粉末にしたもので作られていたとそうです。新緑をイメージする緑色には、厄除けの意味が込められています。中国で使われていたハハコグサは、日本では「母子を搗く(つく)のは縁起が良くないとされ、代わりによもぎの葉が使われるようになりました。
この菱餅、実は明治時代になるまでは緑と白色の2色だったのです。ここに古くから魔除けとして用いられていた紅色を加え、桃の節句のおめでたい日を祝う晴れの日に相応しい食べ物へと進化していったと考えられています。確かに3色を重ねることで、春らしさがいっそう感じられますね。
雛祭りとは無関係だった「ちらし寿司」
パパキャリ世代のパパ・ママにとって桃の節句の食と言えば、ちらし寿司を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。ところが、ちらし寿司には雛祭りに関する直接的な謂れはないのです。もともとは「なれずし」という魚をお米に漬けて発酵させたものを食べていたことが原点ではないかとされています。
そもそも質素な「なれずし」と「ちらし寿司」では、同じ寿司の名がついていても、見た目も味もまったく異なります。桃の節句に華やかなごちそうを、ということでちらし寿司が選ばれるようになったのではないでしょうか?女の子の健やかな成長を祈る気持ちが、どんどん雛祭りの食卓を豪華にしていき現在のちらし寿司に行き着いたのだと思うと、両親の良き愛情が生んだ新しい伝統といえるかもしれませんね。
旬の食材で家族で雛祭りを楽しみましょう
ひなあられ・菱餅・ちらし寿司と桃の節句に因んだ食のご紹介、いかがでしたか。ちらし寿司と雛祭りは直接的な関係が無かったとはちょっとビックリでしたね。でも、今ではちらし寿司も桃の節句を代表する食のひとつになっています。ぜひ今年の雛祭りは、旬の食材をふんだんに使ったちらし寿司と蛤のお吸い物を家族で楽しんでみてくださいね。
【参考文献】
※『旬の日本文化』|株式会社KADOKAWA2009年刊
※『暮らしの古典歳時記』|株式会社KADOKAWA2020年刊