
シャキシャキの食感と穴の開いた見た目が特徴の蓮根。一般には蓮の地下茎の肥大した部分を指し古くから食用として親しまれています。また、おせち料理など縁起物としても「先の見通しがきく」と重宝されてきました。この蓮根、実は縁起物だけでなく、私たちの肝臓や胃を守り、健康な身体を保つための力強い味方にもなってくれる素晴らしい栄養も豊富に含んでいるのです。そこで今回は蓮根の素敵な魅力に迫ります。
明治に導入した中国種が主流

蓮根は奈良時代に観賞用として中国から日本に伝来したと考えられていますが、食用になったのは鎌倉時代以降で、僧侶の道元らによって持ち込まれた品種が各地に広まりました。江戸時代には尾張藩が今の愛知県愛西市付近でが稲作に代わる作物として栽培を奨励し、東海地方に定着し今の在来種として収穫されています。ただ収穫にムラがあるため、全国的には明治時代に中国から取り寄せた肉厚で太い中国種が主流となりました。今、私たちが売り場で目にする蓮根はこの中国種が大半になっています。主な産地としては、茨城県の霞ヶ浦産や石川県の加賀レンコンなどが有名です。
ビタンミン類を効果的に摂取できる優良野菜

では蓮根の素晴らしい栄養を掘り下げてみましょう。蓮根の主成分はデンプンですが、ビタミンCを豊富に含んでいるのが大きな特徴です。100gあたり48mgもの含有量があり、これは私たちが1日に必要とするビミタンCの量に匹敵します。そして大量に保有するデンプンの働きから、熱を加えてもビタミンCが損なわれることが少なく高い摂取量が期待できるのです。さらに鉄分やビタミンB12、ビタミンB6も多く含んでいるので、貧血防止や肝機能の保護にも良いとされます。このように私たちの身体に必要なビタミンを効果的に補給できる素晴らしい野菜なのです。
強い収斂作用で抜群の止血効果も

蓮根を切ると、すーっと糸を引くことがあります。この成分がムチンで、胃腸に働きタンパク質や脂肪の消化や吸収を促してくれます。続いてタンニンです。この成分には強い収斂作用があり、止血に優れた効果を発揮します。その消炎・止血作用から薬の乏しい時代は結核の喀血に対して用いられていたほどなんです。今でも胃潰瘍や十二指腸潰瘍などに悩まされている方にも、進んで食べて欲しい食材とされています。
郷土料理の代表「からし蓮根」

素晴らしい栄養を豊富に含む蓮根ですが、実際、私たち食卓に登場するお料理は、きんぴらやはさみ揚げ、煮しめなどそう多くはありません。その中でも知名度NO,1は熊本を代表する郷土料理「からし蓮根」ではないでしょうか。ここではその誕生秘話をご紹介しましょう。
350年ほど前の江戸時代、肥後細川家初代藩主忠利は、日頃から体が病弱でした。これを心配して羅漢寺玄宅和尚は「何か栄養のあるものを」と苦心さんたんしており、ある時、蓮根に造血効能があることを和漢の書で知り、これを勧めてみました。しかし、忠利は蓮根が「泥の中で育った不浄なもの」と言い、箸をつけませんでした。そこで和尚は一計を暗示、麦味噌に和辛子粉を混ぜたものを蓮根の穴に詰め、麦粉、そら豆粉、玉子の黄身を混ぜ合わせた衣をつけて油で揚げ、もの珍しい逸品を完成させました。
さっそく、忠利のもとへ差し出すと、たいそう気入り、常食する程に。病弱だった忠利は食欲も増し、みるみる剛健なったとのこと。また、輪切りにした蓮根の外観が細川家の家紋、九曜(くよう)の紋に似ている事もあり、忠利公は製造方法を秘伝とし、明治維新の頃まで門外不出の味とされていました。この歴史が肥後熊本の地を全国唯一の辛子蓮根の名産地としている由縁になったのです。
蓮根を家族みんなで楽しんで健康促進へ

ご紹介してきたように素晴らしい栄養を豊富に含む蓮根は、私たちの健康促進に力強い味方になってくれる食材です。何より、「先の見通しがきく」という縁起物でもあるので、ぜひ家族みんなでおいしく食べて明るい明日へ繋げていただければと思います。機会があれば、からし蓮根も食べてみてくださいね。
【参考文献】
※『からだに効く食べもの事典』|株式会社主婦の友社2016年刊
※『旬の野菜手帖』|株式会社枻出版2011年刊