「ぶり」がおいしい季節です。その成長につれて呼び名が変わっていくため出世魚ともいい、中でも12月~2月に獲れた天然のぶりは「寒鰤(かんぶり)」としてグルメな人たちの舌を喜ばせています。鰤しゃぶ、照り焼き、ぶり大根など思い浮かべただけでもお腹が鳴ってきますね。今回は出世魚・ぶりについて探ってみました。
師走の頃においしくなる魚だから「鰤」と書く
スズキ目アジ科に属している海水魚のぶりの名前の由来は、江戸時代の本草学者の貝原益軒が「脂多き魚なり、脂の上を略する」と語り、「あぶら」が「ぶら」へ、さらに転訛し「ぶり」となったという説が有力です。そして師走の頃から最もおいしくなるので魚偏に師が当てられ、今の文字「鰤」に定着したようです。
成魚になった状態をぶりと呼ぶのは全国共通ですが、稚魚からぶりになるまでは各地域で呼び名が異なっているのも出世魚らしい特長のひとつです。しかも同じ出世魚のスズキやボラと比較しても、各地域ごとの呼び名の違いが大きいのも、ぶりが古くから人々の食卓と結びついていた証ともいえるでしょう。
関東と関西の呼び名の違い
では東日本と西日本の代表的なエリアでの呼び名の変化を比べてみましょう。それぞれの名前を覚えておいて、鮮魚店などで確認すると楽しいですよ。
◆『関東の呼び名』(サイズはcm)
モジャコ(稚魚) ⇒ ワカシ(35以下) ⇒ イナダ(60以下) ⇒ ワラサ(80以下) ⇒ ぶり(80超)
◆『関西の呼び名』(サイズはcm)
モジャコ(稚魚) ⇒ ツバス(40以下) ⇒ ハマチ(60以下) ⇒ メジロ(80以下) ⇒ ぶり(80超)
ぶりになるまでに、どちらとも4回呼び名が変わっていきますが、どの段階でもまったく異なるのが興味深いところです。地域の暮らしや食文化の違いが、こうした呼び名を生み、脈々と受け継がれているのです。
養殖のぶりの通称がハマチ
関西の呼び名で、おやっ?と思われた方もしるでしょう。そうハマチという呼び名です。寿司ネタでもお馴染みの名前ですが、回転寿司店などで使われているハマチは大きさにかかわらず養殖のぶりを指しています。それが広まり、最近では養殖モノのぶりをハマチと呼ぶ使い方が一般的になっているようです。
ぶりの最高ブランド「ひみ寒ぶり」
「氷見の寒ぶりが最高」とグルメな人たちはよく言います。富山県の氷見漁港で水揚げされたこの時期のぶりは、国内屈指のブランド「ひみ寒ぶり」と呼ばれ高い人気を誇っています。氷見魚ブランド対策協議会が判定した期間に富山湾の定置網で捕獲され、氷見漁港で競られたぶりを指しています。
毎年ぶり漁スタートの時点から、ぶりの大きさや数量、形などを判定委員会が入念にチェックし、本格的な氷見のぶりシーズンを迎えたと判断した段階で「ひみ寒ぶり宣言」を発表します。宣言後は、1尾に1枚、氷見漁港で競られたことを証明する販売証明書を発行し、統一の青箱に入れて出荷され、全国のぶりファンの舌を喜ばす逸品となるのです。今シーズンは年明けの1月6日に宣言されました。まさに旬まっさかりの時、機会があれば一度は食べてみてくださいね。
「ぶりのしゃぶしゃぶ」を家族で楽しみましょう
この記事の締めくくりは筆者おすすめのぶりの楽しみ方と、おいしく食べるためのポイントをご紹介しましょう。「ひみ寒ぶり」でなくとも、この時期のぶりは脂のりも最高です。その旨みを心ゆくまで楽しめるのが「ぶりのしゃぶしゃぶ」です。季節の野菜と一緒にポン酢でいただきます。
おいしく食べるためのポイントは2つ、まずはぶりの切り方です。鮮魚店などでしゃぶしゃぶにすると伝えて冊(さく)で買い、食べる直前に薄く断面を広く切るのがコツです。厚さ4mmが理想と覚えておきましょう。欲張って厚く切り過ぎると、しゃぶしゃぶでは表面にしか火が通りません。中までほんのり温まったレア状態がおいしさの極みになるので、厚さに注意しましょう。断面を広く切るのは、口に入れたときにぶりの旨みを存分に感じることができるからです。
もう1つのポイントは、食べるタイミングです。強火でグラグラさせた鍋の中で、いつまでも煮ているなどは論外です。 ぶりは火を通し過ぎると、脂が抜けてパサパサになりボロボロと崩れてしまい、おいしさも失われてしまいます。
まずは火加減、一度グラグラ沸いてきたら、鍋の表面がゆらゆらと動くくらいの弱火にします。ぶりは1枚ずつ鍋に入れ、2~3回のしゃぶしゃぶで充分です。表面が白っぽくなり、中がほんのりピンクに色づいた状態が、おいしさを感じれるいちばんの状態なのです。
寒さがまだまだ厳しい時期はなんと言ってもお鍋です。家族そろって出世魚「ぶり」のしゃぶしゃぶを囲みながら、子どもの健やかな成長を願いつつ、おいしく楽しんでくださいね。
【参考文献】
※『江戸の魚食文化―川柳を通してー』|株式会社雄山閣2013年刊
※『たべもの起源事典』| 株式会社東京堂出版2003年刊