梅雨の時期に食べる京の名産品「水無月」という和菓子をご存知でしょうか?全国各地の神社で、年に2度ある「大祓(おおはらえ)」という神事のうち、上半期の終わりに行われる「夏越の祓(なごしのはらえ)」に合わせて楽しまれています。6月を指す水無月の名がついた歴史ある品ですが、その由来や、どんな食材で作られるのか、意外と知らない人も多いようです。そこで今回は、伝統ある和菓子「水無月」の誕生に迫ります。
まずは夏越の祓は何かを知りましょう!
夏越の祓は、名越の祓とも書き、水無月の祓とも呼ばれる行事になります。大祓にはもうひとつ、大晦日に行われる1年の穢れを落とす年越しの祓がありますが、こちらは私たちの暮らしの中にも定着している年末の大掃除の源にあたります。その意味でみると、1年の中間の祓となる夏越の祓は、いわば夏の大掃除といったところにあたりそうです。
神事としての夏越の祓は、この半年の間に「心や体に背負ってしまった罪穢れ(つみけがれ)」を、綺麗に祓い清めるものになります。「罪穢れ」とは、目に見える汚ればかりではなく、無意識のうちに抱いてしまっている心の内側のモヤモヤした想い、罪の意識の有無にかかわらずやってしまった愚かな行為など、形のないものも指します。これらは、自分自身の力だけでは、なかなか祓いきれないので、それらを、神様のお力によってスッキリ綺麗にしてから、また次の半年を健やかに乗り切ろうとする意味があります。
各神社で今も続く「茅の輪くぐり」
夏越の祓の際に行なわれる代表的なものが「茅の輪(ちのわ)くぐり」です。それぞれの神社には、茅(かや)を束ねて作られた大きな輪っかが現れるます。古くから茅には霊力があるとされ、それをもって邪気悪霊を祓うとしたのです。この茅の輪は、左・右・左の順で横に8の字を描くように、3回潜り抜けることで病や災いを祓い除けると伝えられており、今でも大切な行事として親しまれています。細かい作法は、地域によって伝えられているものが違うことがあるので、近くの神社でそのしきたりを確認してから行うのが無難です。
水無月は氷の代替品?
では、いよいよ本題の水無月です。旧暦の6月1日は「氷の朔日(ついたち)」といわれ、冬から氷室に貯蔵しておいた氷を取り出して、食べる行事が宮中で行われていました。室町時代から続くもので、氷を食べることで暑気を払い、夏バテ予防を祈願する行事です。しかし、当時の庶民にとっては高級品である氷を入手することは不可能でした。その代わりとして、氷に似せたお菓子を食べることによって、夏バテ予防を祈願することになったのです。それが水無月の始まりでした。
水無月の三角は氷に見立てた形
当時の氷は、雪を氷室で保存し固められた大きな塊で、それを砕き、宮中で食べられていました。そういった氷の角を三角形で表し、透明感のある氷に似た食べ物として白い「ういろう」が水無月に使われたのです。その上には、邪気払いや悪魔祓いに効果があると信じられていた小豆がのせられました。本物の氷が手に入らない庶民の知恵で、この水無月を食べることにより暑い夏を乗り切ると言った由来があったのです。こうして、半年分の穢れを落とす「夏越の祓」の6月30日に合わせ、蒸し暑くなる7月を前に厄払いをし、夏バテを予防する意味で水無月を食べて健康を祈念するという習慣が定着していきました。
夏を前に水無月で家族の健康を願いましょう
京から全国へと広がっていった水無月を食べる習慣も、近年では意外と知る人も少なくなったようです。ましてや、パパキャリ世代のパパ・ママでは食べたことのない人が大半かもしれませんね。ですから、売場で水無月を見かけた際にはぜひ一度、おうちに買って帰りましょう。家族一緒に、今年の前半の厄をはらって、夏バテ予防を願ってに食べてみませんか。 ういろうを涼しげな氷に見立てた水無月は、ガラスの器などに盛りつけると、より清涼感のある雰囲気が生まれ、おいしさもアップしますから試してみてくださいね。
【参考文献】
※『春夏秋冬を楽しむ~くらし歳時記~』|成美堂出版 2013年刊
※『旬の日本文化』| 株式会社KADOKAWA 2009年刊